2015年6月4日木曜日

『NHL選手によるスタンレーカップ・ガイド:ファイナル編』- マイク・ラップ

今シーズンのスタンレーカップ・ファイナル、
もう始まってしまいましたが、この記事に目を通してシリーズを観戦すれば、
きっとより楽しむことが出来ると思います。

ニューヨーク・レンジャーズのマイケル・ラップ選手(35)による分析とチャンピオンの予想です。

誤訳もあると思いますが、ご了承ください。

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 僕がアイスホッケーの試合で一番緊張しなかった試合は、2003年のスタンレーカップ・ファイナルの7試合目だった。嘘のように聞こえるだろう。当時は23歳で、NHLに入ったばかりだった、と言ったら尚更だ。幸いなことに、僕のチームにはケン・ダネイコが居た。

 僕達が、試合の数時間前の軽食をとっていた時、ダネイコが席に座り、彼は自身の昔話を始める。恒例のダネイコ「武勇伝タイム
の始まりだ。


 ―話は、彼がNHLの中でまだ若かった1980年頃、というところから始まる。デビルスがバッファローで試合をしているとき。笛が鳴った後に、ダネイコがキーパーと接触する。バッファロー側は腹を立てた。ダネイコはディフェンスだからだ。(※ディフェンスがキーパーと接触するのは普通ありえない。すなわちわざとである)。そして、次のシフトのフェイスオフで、彼は面白い場面に出くわす。

 バッファローのエンフォーサーがベンチから飛び出てきて、フェイスオフでダネイコと顔を合わせる。センターの方も向かないでメンチを切り合っている。グローブを落とす準備(※乱闘する)をしている。


 そこで一つ問題があることに気付く。審判は2人の方を向いて困惑しながらベンチを指さす。エンフォーサーの男は手元を見て、スティックを忘れていたことに気付いた。



 ―そして僕(マイク)はダネイコの歯なしの髭面で、「お前は何しに来たんだ」と相手に皮肉っている場面を想像する。


 みんなは爆笑している。誰も数時間後の試合の事など考えていなかった。僕たちは非常にリラックスをしていた。若者として、ベテラン選手がリラックスし、試合を楽しみに挑む姿を見ていると、もの凄く自信が湧いてくる。そしてその夜、僕らは優勝した。僕はゲームウィニング・ゴールを決めた。オハイオ州の家の前の道路で何千回も練習したゴールだ。ダネイコや、他のベテランがこのチームに居たからこそ、決める事が出来たゴールだった。



 ―そして、平等過ぎる2チームが対決する今回のスタンレーカップ・ファイナルで注目して欲しいのがこれだ。シカゴとタンパの両チームの中で、誰が変化を齎す(もたらす)か、紙上で予想するのは極めて難しい。最後的には、メンタル面が一番重要なのだ。


 プレーオフの間、特にファイナルになると、みんなは掃除機
になる。食する物の全てに理由がある。寝る前にストレッチをする。電話には出ないし、メールも返さない。ツイッターなんて見ない。ホッケー以外、頭にない。正直、すごく良い気持ちだ。その瞬間をよりエンジョイすることが出来る。そこで、失うものが何かと考えること、得るものが何かと考えることが出来る。 When you’re playing not to be the dog, it’s a dangerous mindset.

 広告の全てが テイヴス、ケイン、スタムコス、ヘッドマンなど、スター選手ばかりに焦点がおかれる。僕はこのシリーズの両チームにとって誰がケン・ダネイコになるかと考えている。これがスタンレーカップ・チャンピオンになるための秘密のカギだ。



Gut Reaction

 NHLで、イースタンから上位6チーム、ウェスタンから上位6チーム。マジで。誰にどんな利点があるかなんてわからない。瞬きを一度するだけで、また一人のスーパースター選手がゴールを決めて、飛び跳ねている。双方のコーチにとって、とてつもなく変わりやすく、複雑な試合になるだろう。しかし、もし僕がタンパのコーチ、ジョン・クーパーだったとしたら、僕はその複雑さを、さらに複雑にさせることはしない。僕はチームのセットを回し、氷上へ送り、思いっきりプレーして来いと言う。タンパベイのチーム、僕は『バッドボーイ・ピストンズ』を連想する。彼らが敵チームに無礼であると言っている訳ではない。彼らは極度の自信に溢れ、プレーをしている。

 僕は一度、コーチがテイヴスやケインなどの一流選手を引き留めるかと心配しすぎて、選手たちも心配が伝染してしまった状況に陥った場面を経験した事がある。そうなってしまうと、選手は引き留める事に集中、心配しすぎて、自分たちも点を取らなければいけない、ということを忘れてしまう。そのパニックはチーム全体に伝染してしまい、実際にテイヴスやケインがリンクに出た時に、自分のプレーを出来ず、相手が怪我をする、などといった考えが頭をよぎり、体より頭が動いてしまう。ジョン・クーパーはきっと引き留めることも考えながらも、選手たちにはパックを奪って決めて来い、と伝えるだろう。

これが次の鍵。『自信』


注目するべきこと。
 両チームに、良い自信を持ってプレーしているディフェンスが1人ずついる。ダンカン・キースとアントン・ストラルマンだ。まず、ダンカンから始めよう。この男のコンディショニングはNHLのディフェンスマンの平均より尋常じゃないほど秀逸(しゅういつ)している。1試合31分プレーしていることだけではなく、その31分で何をしているかだ。普通のディフェンスの様に常に守っているだけじゃない。彼がブルーラインでシュートをフェイクする様子を見てほしい。彼のフォアスケーティングからバックスケーティングの切り替え方、小回りなターンをする、方向転換などにも注目して欲しい。これらのことは、息切れしているときには非常に、非常に難しいことだ。

 ウィンガーとして、アブノーマル(非典型的)なディフェンスマンには頭を悩ます。ディフェンシブ・ゾーンで高めのディフェンスをマークしている際、この時はこうして、あの時はああしてとパターン化してしまう事がある。エリートなディフェンスをマークしている時もだ。簡潔に言うと、忍耐強く、彼らの前に居続け、シューティング・レーンを防げばいいのだ。しかし、ダンカンの場合、典型的ではない。彼は常に動き回って、他のディフェンスには作れないチャンスを幾度も作り出す。NHLの中でも、自身のスピードに自信を持って、彼の様にピンチ出来るディフェンスは一握りだ。

 一例を挙げる。初めてピッツバーグに来たとき、ディフェンス同士でパスを回し、45度に居るウィングにパスをするというブレイクアウトの練習をした。クリス・レタングがブルーラインで毎回ピンチをしてくる。僕は「こいつは何をやってるんだ」と腹を立てる。彼は目の前まで来て、毎回毎回ピンチをしてくる。だから僕は彼のシンガードを叩いて「やめろよ。実際試合でそんなことしないだろ」と言った。

 レタングは「もちろん試合でもやるさ」と言った。

 そしてそれは本当だった。レギュラーシーズンが始まり、敵のブレイクアウトの際はほぼ毎回ピンチしていた。それは彼が恐らくNHLの中でも5人程、自分のスピードに自信を持ってる選手の一人だからだ。彼はダンカン・キースのように、恐れずプレーをする選手だ。二人とも20代でスタンレーカップで優勝を経験している。つまりそういうことだ。

 ダンカンやレタングと同じようにタンパベイのアントン・ストラルマンは自身のプレーに信念を持っている。今シーズンで彼はエリートなディフェンス群の一員なるほど躍進した。それは彼はプレーをする際に考えすぎなかったからだ。ディフェンシブ・ゾーンでの彼が先を読んでプレーする姿に躊躇は見えない。プレーオフで彼が間違った選択をしたのは一度も見たことがない。クーパーはストラルマンやヘッドマンのようなディフェンスに自由にプレーさせていることに賞賛を受けるべきだ。ニューヨークで一度、ストラルマンとプレーしたことがあるが、その時は3セット目のディフェンスとして、今のような活躍はしていなかったし、する必要が無かった。Dマンとしての要素は全てかけ備えていたが、レンジャーズにはそういったディフェンスが何人も存在していた。良いディフェンスが多かったため、一つでもミスをすれば、彼は干される。多くの選手たちは、ミスをしないことだけを心がけてプレーをする。残りの選手は変化を齎すためにプレーをする。ほんの小さな違いだが、後者は常に躍起になってプレーをする。それらを選手から引き出すには適したコーチングが必要で、クーパーはストラルマンにとって、最適だったのだ。

 ストラルマンとヘッドマンはテイヴスやケイン(ケインが1セット目に戻るとして)と格闘することになり、彼らは非常に楽しいホッケーが出来るだろう。

 そしてここで、次の注目すべき点が出てくる。(パターンがわかったかな?)


The X-Factor(X因子、物事を成り立たせる要素)
 ああ、このシリーズを予想するのは何て難しいんだ。タンパの、スピードという武器を持つセットの三銃士は、レンジャーズ相手も、圧倒する。NHLいち速いチームだ。7試合目でオンドレイ・パラットが決めた素早いパス回しから決めたゴールは、実に美しいものだった。スピード、ケミストリー、最後はきちんと決める能力。あのセットが特別であることを証明する、理想なプレーだった。

 そして、もう片方のシカゴ。「シカゴ」と言うだけでも十分かもしれない。テイヴスが10年に一人のリーダーである、そしてコリー・クローフォードが敬意を払われるべき、というのは、もう以前話した。
(※マイク・ラップは今シーズンのスタンレーカップのシリーズを全て今回の様に分析、予想した。その際書いた記事の事。訳の記事はありません、申し訳ありません。)

 紙上で見て、双方のチームのスター選手は五分五分。1セット目のディフェンスのペアも五分五分。コーチ陣も独自の面でどちらもとても優れている。キーパーも両者波に乗っている。テイヴスとキャラハン、キャプテンも両チーム素晴らしい。お互いアンドリュー・ショーとブライアン・ボイルと言ったムードメーカーもいる。

 ただ一つ、五分五分にならない面がある。シカゴの3,4番目のディフェンスだ。ニコラス・ヤマルソンとジョニー・オデューヤはプレーオフで非常に活躍している。今回のファイナルでは、その活躍を相手の三銃士を抑えるために続けなければならない。カギとなるのは抑える事。タンパベイのトップ6選手はチーム全体の55ゴールのうち、45ゴールを独占している。もしシカゴがそのペースを少しでも抑えきることが出来れば、シカゴは2年連続スタンレーカップ・チャンピオンとなるだろう。


スタンレーカップ・チャンピオン:
・シカゴ。7試合目。

コン・スミス・トロフィー受賞者(プレーオフファイナルMVP):
・ダンカン・キース。AHLでダンカンと2000年頃にプレーしたとき、「ん~、こいつは本当に才能を持っている。でもNHLで活躍するには小さすぎる。」と思った事を覚えている。これで僕の分析者として才能があると証明できる。(※冗談)

 やあ、みんな。これまでプレーオフを分析してて、とても楽しかった。読んでくれてありがとう。ツイッターで野次を飛ばすのも歓迎だよ。@Rupper17.

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 鼻がひん曲がって喧嘩が多い彼なので、こんなに詳しく分析できるのかと、驚きました。しかし、多くのチームを転々としている彼だからこそ出来た分析だと思います。彼が教えてくれた注目すべきカギを、これらの点を気を付けて、今回のスタンレーカップ・ファイナルを見てみると、今まで以上に楽しめるのではないでしょうか。

みなさんは、どちらが優勝すると思いますか?
私は、シカゴ。5試合目かな!

※マイクはダンカンを小さいと言いましたが、ダンカンは185㎝、87㎏。
 ちなみに、NHLいち小柄なマーティン・セントルイ選手は173㎝、82㎏。
 皆さんご存知、ズデノ・チャラ選手は206㎝、116㎏。




マイケル・ラップ (Michael Rupp)

1980年1月13日生まれ、 アメリカ出身
身長:196㎝
体重:110㎏


1998年に9位に、アイランダーズからドラフトにかかるも、OHLでプレー継続。

2000年にふたたび76位で、レンジャーズからドラフトにかかる。


キャリアで計610試合に出場、99ポイント、855分PIM。







 今は、  ブランドン・プラストによる、『乱闘をする理由』という記事を翻訳中です。 

 その記事の後には、ダニエル・カーシロ筆の『Gone』という記事を翻訳するつもりです。Goneとは、無くなる、人の場合は亡くなるという意味です。乱闘する選手の重要性を綴っている記事の後に、その選手たちが背負うプレッシャーやストレスについて、そして、カーシロ選手の友である故・スティーブ・モンタドール選手の死について。モンタドール選手が引退後、何をするべきかわからなくなり、自己嫌悪に至り、痛み止めや精神安定剤などの薬物過剰摂取により亡くなったことについて綴り、NHLに選手の引退後のアフターケアを求める運動を始め、動画などで訴えています。




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